現地に着いて機内モードを切った瞬間、何かがおかしい。ChatGPTは「お住まいの地域ではご利用いただけません」、Netflixは見たかった作品が半分消え、銀行の認証コードはいつまでも届かない。でも、何も壊れてはいません。スマホもeSIMも正常です。原因のほとんどは、データプランを買うときに誰も教えてくれない、ある一点にあります。それは「あなたの通信がどの国から出ているように見えるか」です。
あなたと一緒に旅する「住所」
スマホがインターネットにつながるときは、必ずIPアドレスという「住所」から通信しています。開いたアプリはどれもこの住所を読み取って、あなたがどの国にいるかを判断します。日本にいれば日本。海外では、データがどう経路をたどるかで決まります。
多くの海外旅行用eSIMは、現地の回線をそのまま渡すわけではありません。ローミングです。データは現地のネットワークを通ってどこか別の拠点(ハブ)へ運ばれ、そこで初めてインターネットに出ます。タイで使うプランはシンガポールから、日本で使うプランは香港から出ることがあります。中国本土で使うプランは、ほぼ必ず本土の外から出ます。
その出口があなたのIPの位置です。スマホのアプリにとっては、あなたはそこにいることになります。ビーチでもホテルでもなく、そのハブに。
AIツール:決めるのは各社の対応国リスト
OpenAIとAnthropicは、ChatGPTとClaudeを提供している国・地域のリストをそれぞれ公開しています。香港、マカオ、中国本土はどちらのリストにも載っていません(2026年10月24日に両方を確認済み)。つまりプランの出口が香港だと、たとえ東京やバンコクにいても、ChatGPTとClaudeはたいてい開けません。
GoogleのGeminiは香港とマカオを対象に含め、MicrosoftのCopilotが除外しているのは中国本土だけなので、香港のIPでもこの2つは通常使えます。
出口がシンガポール、アメリカ、イギリス、ヨーロッパの大半、日本なら、4つとも通常は利用できます。AIアシスタントが仕事に欠かせないなら、プランを買う前にいちばん確認しておきたいのがここです。リストは変わることがあるので、長期の旅行なら各サービスの公式ページを一度見ておきましょう。
動画配信:作品ラインナップはパスポートではなくIPで決まる
Netflix自身もヘルプセンターで、視聴できる映画やドラマは国によって異なる場合があると説明しています。同じ契約でも、あなたがどこにいるように見えるかで表示される作品が変わります。出口がシンガポールのプランなら、たいていシンガポールに近いラインナップになります。日本では見られない作品が増えることもあれば、いつもの作品が見当たらないこともあります。
YouTube PremiumとSpotifyは香港を含むほとんどの国で使えますが、中国本土では使えません。YouTubeは、長期間国外にいるように見えるメンバーシップには対応をとる場合があるとも案内しています。どれも直すべき不具合ではなく、配信権が国ごとに売られているという仕組みです。知っておけば、初日の夜に驚かずに済みます。
銀行:追加の本人確認と、届かないSMS
銀行は見慣れない場所からのログインに目を光らせていて、海外からのログインで追加の確認が求められることがあります。その確認はSMSで届くコードであることが多く、旅行者がつまずくのはまさにここです。
海外旅行用eSIMはデータ専用で、電話番号がありません。ですからそのSMSは受け取れません。受け取れるのは、いつものSIMです。通話とSMS用にオンにしたまま、データはeSIMに任せればいいのです。eSIM対応のスマホなら、ほぼすべてが2回線を同時に使えます。
ですから出発前に:銀行がアプリでの承認や認証アプリに対応していれば切り替えておく。求められるなら渡航を銀行に伝えておく。日本のSIMはSMS用にオンのまま、モバイルデータはeSIMに設定して、携帯会社からデータローミング料金を請求されないようにする。海外でのSMS受信に料金がかかるかも確認を。たいていは無料ですが、会社によって違います。
現地アプリ:IPより電話番号とアプリストアの国
バンコクのGrab、ソウルのKakaoTalk、上海のWeChat、ハノイのZalo。こうしたアプリが気にするのはIPの位置よりも、電話番号、支払いカード、アプリストアの国です。ストアにアプリが見つからないなら、それはアカウントの国の問題で、eSIMとは関係ありません。
解決策はタイミングです。必要なアプリは日本にいるうちにWi-Fiでインストールし、自分の番号で認証コードを受け取れるうちにログインしておきましょう。各渡航先のページには、旅行者が現地で実際に使っているアプリを載せています。
Lempart Flexの場合
そこで、私たちはこうしています。販売するすべてのプランで、IPの位置を支払い前に表示しています。価格のすぐ横です。出口が複数ある渡航先では「IPを選ぶ」で選べます。AIツールを使うなら香港ではなくシンガポール、アメリカのネット環境が必要なサービスならアメリカの出口、というように。
その住所を受け取った各アプリがどう振る舞うかはアプリ側の判断で、ルールも変わります。だからこのガイドでは「必ず」ではなく「通常は」と書いています。私たちは事実をお伝えし、選ぶのはあなたです。
出発前の2分チェックリスト
プランのIPの位置と、欠かせないアプリがそこで使えるかを確認する。現地アプリは日本でインストールしてログインしておく。銀行の認証をアプリ方式に切り替える。日本のSIMはSMS用にオン、データはeSIMで。念のため、初日の夜用に映画を1〜2本ダウンロードしておく。